マイナ普及・システム不備・広がる不信

マイナンバーカード

行政デジタル化 遅れ露呈。

「機械の不具合かな?」 4月中旬、関西在住の30代女性は、

かかりつけの病院の受付で戸惑った。マイナンバーカードと

保険証が一体となった「マイナー保険証」を端末に通すと、

画面に別人の名前が表示されたからだ。

省庁たらい回し。

保険証を自宅に忘れた女性は、4月からマイナーカードが

保険証と一体になったことを思い出し、試しに使って

みたのだった。だが、表示されたのは下の名前の読みは

同じだが、全く知らない人。加入する健康保険組合も違った。

窓口で「結婚して保険証が変わったのか」と尋ねられたが、

そんなことはない。別の病院や薬局でも試してみたが、

結果は同じだった。所管する総務省に問い合わせたが、

担当者は「聞いたことがない」との一点張り。デジタル庁や

厚生労働省をたらい回しにされた挙げ句、翌日、国民健康保険

中央会の担当者から電話で、別人が加入する国民健康保険組合が

誤登録をした可能性を指摘された。

だが、組合に問い合わせると「国のガイドライン遠りにやっており、

こちらにミスはない。訴えるなら総務省や厚労省に言え」などと

恫喝まがいの言葉を浴びせられたと言う。理不尽な扱いに心身に

不調をきたし、不眠症にも悩まされたと言う。その後、情報自体は

正しく書き換えて貰えたものの、未だに政府や組合からの正式な

謝罪はないままだ。

「責任のなすりつけあいをし、対応する問い合わせ窓口もない。

ずさんな管理だ」と憤りを隠さない。厚労省によると、こうした

誤登録は、令和3年10月から令和4年11月末に約7300件起きた。

さらに今年5月以降、保険証だけでなく。公金受取口座やマイナ

ポイントが別人のものと紐づけられるミスが発覚した。

紙やファックスで。

マイナンバーをめぐる相次ぐトラブル。

その直前、日本が「デジタル後進国」であることが白日のもとに

晒されたのが、新型コロナウイルスへの対応に関するお粗末さだった。

最初のつまずきは、感染が急速に広がった令和2年春。

全国民に支給した10万円の特別定額給付金だ。迅速な支給を目指し、

マイナカードを使ったオンライン申請を採用したが、カードの

暗証番号を忘れた人が自治体の窓口に殺到。

多くの自治体が紙での申請を推奨する事態となった。

感染者と接触した可能性を知らせるスマートフォン向けアプリ

「COCOA(ココア)」でも、約4ヶ月間、一部端末で通知が届かない

不具合が発生した。

医療分野でもトラブルは頻発。

保健所の負担軽減に向け、医療機関がコロナ感染者の情報を直接入力

するために導入した「HERSYS(ハーシス)は、入力項目が多く、

かえって現場の負担が増加。結局、医療機関は保健所にファックスで

情報を伝達し、保健所が代行入力するという本末転倒な事態を招いた。

こうした状況を改善すべく、令和3年9月に鳴り物入りで誕生したのが

デジタル庁だった。

しかし、各省庁のデジタル政策を取りまとめる役割のはずが、むしろ

縦割り行政の問題を露呈させ、新たな課題を浮き彫りにした。

寄り合い所帯。

「霞が関の文化は独特だ。大企業で働いていたとしても、適応には

時間がかかる」。

デジタル庁が機能しない原因として、ある官僚OBは、その独特の

組織体制を指摘する。

デジタル庁は、職員数約900人のうち4割弱に当たる約350人を民間

出身者が占める。

役人側も財務省や総務省、経済産業省など各省庁等から集めた

「寄り合い所帯」だ。

更に、各省庁から集められた多くの事業を抱え、人手不足は明らか。

「各省庁間の根回しや調整といった霞ヶ関特有の仕事に民間出身者は

苦労した。

職員間の意思疎通もスムーズではなかった」。ある官庁の幹部は

明かす。

政府はトラブル防止へ向け、デジタル庁への権限集中を急ぐ。

ある自民党のデジタル族議員は「デジタル庁にすべての行政システムを

チェックする機能を持たせる必要がある」と提言する。マイナカードを

「デジタル社会のパスポート」と位置付ける政府は、行政手続の一本化を

加速させる構えだが、相次ぐトラブルで国民の不信感は高まった。

不安を拭えないまま、今月2日には健康保険証を廃止してマイナカードに

統一し、カード取得を事実上義務化するマイナンバー法など改正関連法が

成立した。

将来に向けて不可避な行政デジタル化の遅れを取り戻せるのか?

コロナ禍に端を発した苦い経験を教訓にして着実に推し進めることが

できるのかが問われる。

マイナカード・見切り発車

公的給付金の受取口座の誤登録など、マイナンバーをめぐる問題が

噴出し、制度に対する国民の信頼は大きく傷つけられた。

デジタル相は、金融機関の口座の名義を自動的に照合できない

マイナンバーのシステムの不備を誤登録の原因に挙げた。

一方、「デジタル化に背を向けることはできなかった」と述べ、

制度不備のままカード普及を急いだ「見切り発車」を認めた。

「諸外国がデジタル化を進める中、日本が歩みを止めることは

できない」。

デジタル相は6月7日の記者会見でマイナンバーのシステムでは

漢字の氏名だけが名義として登録されている一方で、公金受取口座では

カタカナのみが名義登録されているため、名義の照合が自動的にできないと

いうシステム上の未整備があったまま運用を開始したことを弁明した。

今後は、6月2日に成立したマイナンバー改正関連法で、令和7年中に

マイナンバーにふりがなを登録できるようになるため、その後は

マイナンバーと公金受取口座の名義の照合がシステム上可能になる

見通しだ。

ただ、それまでの間はシステム上は別人名義の口座を登録することも

可能な状態のままで、トラブルがさらに相次ぐ可能性もある。

専門家は、マイナンバーのシステムについて「公的給付金は決して

別人に支払われてはならないもので、本来は確認や検証をもっとしっかり

行って、問題がないとはっきりするまでは提供されてはいけないものの

はずだ」と指摘する。

デジタル相は、利便性が勝るとして、問題が相次ぐマイナンバーシステムを

改善して行く姿勢を強調した。

だが、今回のトラブルは、担当省庁が数か月前に把握しながら公表しない

ケースもあった。信頼回復の道は険しい。 

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