終身雇用厚遇見直し・退職金の行方

終身雇用制度

税制改正の方針

終身雇用を前提とした企業の退職金制度が揺らいでいる。

政府が「骨太の方針」で、同じ会社に長く勤めるほど退職金の

税負担が軽くなる現在の税制を見直す方針を打ち出した。

現行税制が、政府が促す労働市場の移動の足かせになるとの

判断で、来年末の与党税制調査会の議論で具体的な内容を決める。

制度見直しの方針に「退職金の手取りが減るのでは」と不安を

抱く人も少なくない。

私たちの退職金はどうなるのか?

現在の退職金制度

退職金には税金がかかる。現在の退職金制度にかかる税制は、

勤続20年を超えると控除額が大幅に増える仕組みである。

控除額は勤続20年までは1年当たり40万円だが、20年を超えると

70万円と大幅に増額する。

勤続30年の人が退職金2千万円を一括で受け取った場合、20年までは

40万円×20年で800万円、残り10年は70万円×10年で700万円で、

計1500万円が控除額となる。

退職金から控除額を引いた半額の半分(課税退職金所得金額)に

税率をかけるなどして、退職金にかかる所得税額を算出する。

退職金には所得税以外の住民税なども課されるが、所得税額や

課税退職所得金額をベースに算出するため、控除額の多寡は他の

税金にも影響する。

現行は勤続20年で控除額増額

一方、現行制度では、転職すると勤続年数がリセットされる。

仮に勤続20年で転職した場合、転職先の会社での勤務は控除額が

1年当たり70万円にはならず、40万円のままだ。

2つの会社で計30年働いた場合、同じ会社で30年勤めた人よりも

控除額が300万円少なくなる。

同じ企業で継続して長く勤めた人の方が控除額が多い為、かかる

税金は少なくなる。

終身雇用が主流だった時代に沿った退職所得税だったが、政府は

6月に閣議決定した経済財政運営の指針「骨太の精神」に見直す

方針を盛り込んだ。

長期雇用のほうが優遇される制度は、「成長分野への労働時間の

円滑化」などを打ち出した骨太の方針を進める上で妨げになる。

つまり、若手や中堅でキャリアアップなどを目的に転職したい人が、

終身雇用を前提とした現行制度では、退職金の受け取りが不利と

なると考え、同じ会社にとどまる要因の一つになっているというのだ。

今後の税制改正

制度の見直しについて、当初は年末の与党税制調査会で決まる見通し

だったが、「サラリーマン増税」との批判が生じたこともあってか、

来年末の税制調査会で具体的な内容を検討し、令和7年度以降に

税制改正するもようだ。

優遇をやめた場合、仮に勤続20年を超えた時に1年当たり70万円に

増える控除額を40万円のままとすると、同じ会社で勤続30年の

控除額は、現行の1500万円から1200万円に減る。

かかる所得税を計算すると22万円増える。

政府は経済発展のために税制改正を図る思惑だが、退職を控える人に

「自身の退職金の手取りが減るかも」との戸惑いが生まれてくるのも

事実だ。

老後の生活を退職金をベースに描いている場合、制度の変更次第では、

生活設計の修正が必要になりかねない。

キャリアアップを目指す人、退職金を控えた人、双方に納得感のある

改正が図れるかが注目される。 

納得する制度とは?

どのような制度の見直しが望ましいのか。

見直し自体には肯定的な意見が多い。

ところが、長く同じ会社で勤めた人と転職を繰り返した人とで

制度として差があるのは望ましくない。

同じ会社で勤続20年を超えると控除額が1年当たり70万と

増えるのをやめ、1日40万円などとする方法に対しては、

急転換となるため反発が大きいだろう。

その上で現行ではできないが、元の会社で支給された退職金を

次の会社の企業年金などに持ち込めるようにし、最終的に

退職金として受け取ったときに元の会社の勤続年数も通算して

課税するのが、よりマイルドな方法ではないだろうか。

今回の目的はあくまでも雇用の流動化。

終身雇用でも、転職を繰り返しても、働き方で有利、不利が

ないような仕組みに緩やかにしていくべきであろう。 

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